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神山監督とタムラコータロー監督が好き。 I've Soundという音楽制作集団のぷち追っかけ。
■Tales of Symphonia/ロイコレ
※原作/世界統合編のどこか。

か細い希望のひかりを



深く重たい灰色の空を見上げて、少女はひとり、待っていた。
誰も居ない宿の屋根の上に腰掛けて、普通の人間ならばそうそう上がってこない場所で、静かに息を吐く。
ひとりの時間は、落ち着くけれどあまり好きではない。
寂しい気持ちが溢れ出して、その必要もないのに悲しくなってしまうことがあるから。

しかし、彼女は今、ひとりで夜の中に沈んでいる。
生温い風が頬を撫でて、長い金髪が揺れる。

厚い雲に覆われた、遠い空の向こうにあるものを、ぼんやりと待つ。
膝を抱えて、首が疲れたら膝の上に頭を乗せて。また、空を見る。それの繰り返し。
暫くそうしていると、ガタガタ、と物音が聞こえた。

かくれんぼが終わりを告げたらしい。
視線を前に移すと、ひょこり、と一歳年上の彼が顔を出した。

「コレット」
「ロイド」
「こんな所にいたのか。よっ、と。…今日は天気悪いし。雨降ってくるかもしれないぞ?」
「うん。月も、星も見えないし…そうかもね」

とん、と音を立てて屋根の上に上がったロイドは、曇天に眉を顰めつつ、コレットの隣へ腰を下ろす。
肩がぶつかるほどの距離に、コレットは微笑む。彼にとっての自然な距離が、とても近くて安心する。
身を寄せてきたコレットに、ロイドは訝しげな視線を向けた。

「月も星もないのに、何してたんだ?」
「待ってたの」
「待ってたって…なにを?」
「……、月」
「…月?」

何かを言いかけて、コレットはすこし俯いた。
唇から零れた答えが欠けていることを知らず、ロイドは言葉そのままを受け取り、瞬く。
よく分からない、と首を傾げるロイドに、うん、とコレットは笑う。

「雲が晴れたその隙間から、月が見えるとき。綺麗なんだよ?」
「あー、アレか。まあ確かに綺麗だけど…今日はそう綺麗に見えるかぁ?」

あれはもっと、澄んだ夜空に浮かぶ雲間から顔を覗かせた時の方が映えるだろう。
今日のこの天気ではオススメできない、とロイドは渋面を作り、コレットは『そだよね』と苦笑する。

二人、揃って空を見上げる。
曇天は益々その不機嫌さを増している様子で、なんだか今にも降り出しそうだ。
ロイドは一瞬迷ってから、すっと立ち上がる。
きょとり、としたコレットへ手を差し伸べて、

「見たいんなら、いつでも付き合うから。今日はもう入ろうぜ。雨降りそうだし」
「…うん。そだね」

ロイドの手を取って、コレットは頷いた。
掴んだ手の力強さにすこしドキドキしながら、ロイドの手に支えられ、立ち上がる。
立ち上がったコレットが手を離そうとすると、ロイドはその手を掴んだまま、彼女を引き寄せた。

ぱちくり。大きな瞳を瞬かせ、困惑を見せる。
ロイド? 小首を傾げたコレットに、ロイドが目を向ける。

「おまえ、よく転ぶからなぁ。こうでもしてないと、俺がこわいんだよ。ここ、足場が平らじゃないし」

いつもより、ほんの少しだけ早口にそう言って、ふいっと目を逸らした。
ちいさな違和感と、胸の中に沸き起こる気持ち。

心配してくれたんだ、ありがとう。
ロイド、もしかして照れてるのかな?

前を向いて、ゆっくりと歩き出したロイドの横顔を見つめ、コレットは微笑む。
繋がれた手が心地よい。安心する。すべてを委ねられる。すべてを任せられる。その手に握られる剣が、どんな意味を持っているのか、コレットは理解している。
人間を傷つけたことも、その命を奪ったことも、ある。

村を出なければ、もしかしたら。
そんなこと、知らずに済んだかもしれないけど。

「…ロイド?」
「なんだ?」

村を出なければ、今ここに、コレットはいない。

「ありがとう。手、繋いでくれて。いつも心配してくれて」

追いかけてきてくれて。
諦めないでくれて。
助けてくれて。
救おうとしてくれて。
ありがとう。

「いいよ、礼なんてさ。俺だってコレットにいろいろ助けられてるしな」
「え?」

戸惑いの声を上げたコレットの頬を、風が撫でていく。
振り返り、ロイドはにっと白い歯を見せて笑った。

「日誌当番とか、いっつもコレットといろいろ話さなきゃ書けないしさ。
 今日はジーニアスだからいいけど、明日、俺なんだ。だから、明日、悪いけど助けてくれ」
「うん。勿論、いいよ」
「サンキュー。ほんと、俺ああいうの苦手だ…」
「ロイドは昔からそうだったよね」
「あぁ。段々さー、頭ん中ごちゃごちゃしてくるんだよ」

他愛のない話。
繋いだ手。
ロイドのいろんな表情。
裏表のない、彼の真っ直ぐな態度に、みんな惹かれていくのだろう。

どんな暗闇でも、ロイドだけはその瞳に光を灯している。
光のない世界でも、いつかその闇を割って、希望をその手に掴む。

厚い雲の向こうに希望が息衝いていると信じていられるのは、ロイドのおかげだ。
生きることを諦めていたコレットを抱き締めて、そんな世界は望まないと伝えてくれた。
生きることに怯えていたコレットと向き合って、傍で笑っていてほしいと願ってくれた。

定められた宿命を切り裂いて、ロイドはコレットに手を差し伸べた。

どれだけの奇蹟を積み重ねて、掴み取った幸運なのだろう。
ロイドと手を繋いでいられるこの瞬間に、コレットは思う。

絡まる指先が、とても、とても、大切だ。
きゅ、と繋いだ手に力を込めると、振り向いたロイドが手に力を込めて、笑った。

それはコレットの胸を焦がす。
もどかしい。伝えたい。伝えたい。この気持ちを伝えたい。
ありがとう、ごめんね、ありがとう、もっと近付きたい。
でも、まだ。なにも終わっていない。

世界再生を果たせなかったコレットは、自身に科した贖罪を終えていない。

だから、唇を結んで飲み込む。
彼へ向ける淡い想いも、激しい切なさも、泣きたいくらい焦がれる胸の裡を、飲み込む。
届く日が、届けられる日があると信じていられるから、飲み込む。

例えば、雲間に差し込む月明かりのように。
すぐさま消えてしまう、そのひかりを掻き集めて。
いつか、雲の向こうに、本当の月を見る。

■END

久しぶりにまともに、それなりのものを書いた…かな?
今のところ、やっぱり此処ではロイコレを書いていきたいなーという気持ちがあります。
亀さんというより、本当に気分で、書きたい時に、って感じだけど。
やっぱ筆を執ってみて感じる。TOSは書きたいことがまだあるんだろうなって。
リプレイしたら間違いなくいっぱい出てくるんだけど、時間がとれないからねぇ…。

楽しかった。
読んでくれた方がいらっしゃいましたら…。どうも、ありがとうございます。

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