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神山監督とタムラコータロー監督が好き。 I've Soundという音楽制作集団のぷち追っかけ。
■フルメタル・パニック!
※ずっと、スタンド・バイ・ミー(下)直後の話。

つづくボーイ・ミーツ・ガール



足を踏み入れた部屋は以前と何ら変わりはない。整理された部屋は見覚えがある。忘れる筈もない。だが、生活感がなかった。長らく人が生活した様子のないその空間に、宗介は知らず、唇を結んだ。

帰還を果たし、陣代高校の面々と様々な話をして、また逢うことを約束した。
クラス全員で、神楽坂教諭も交えて。今はもういない、卒業してしまった林水も呼ぼうという話にもなった。
泣きながら笑っているかなめを見て、宗介は心の底から安堵した。
かなり遅くまで学校での雑談は続いたが、積もる話が多すぎて話しきれなかった。大事なことはきちんと伝えたつもりだが、また日を改めて、ということになった。

そうして、学校を出て。
久しぶりに、二人で電車に乗った。

ガタガタと揺れる電車の振動は、爆発や衝突によるそれに比べればとても優しい。
椅子に座れなかったが、二人並んで立っているだけで安心できた。
疲れた顔をしているサラリーマンも、本を広げている人も、つまらなそうに携帯をいじっている人も、平和すぎて妙な感覚だった。

電車を下りたところで、宗介は帰るべき家がないことに気がついた。セーフハウスなど、もうとうに消えてしまっているだろう。
すっかり失念していた事態に気が付いた彼から話を聴いた彼女は、『とりあえず、家に来れば?』と言った。
緊張も混ざっていたけれど、穏やかな笑顔で。

「ソースケ、何してんのよ。早く上がりなさいよ」
「…ああ」

玄関先で棒立ちしていた相良 宗介は、この部屋の主の声に我に返った。
頷きを返して、上がりこむ。靴を脱ぐだけで、ひどく胸が締め付けられた。
フローリングの上に立つ。靴下越しの、すこしひんやりとした硬い感触。

リビングに向かって歩き出した彼女の後に続く。長い黒髪が揺れるのを、じっと見つめた。
テーブルの前に座り込んだ彼女の向かいに、宗介は腰を下ろす。
無言のまま、彼女は俯いている。宗介はただ、彼女の反応を待った。

「ソースケ」
「なんだ」

かなめが顔を上げた。澄んだ色の瞳が、真っ直ぐに宗介を捉える。

「…ちょっと、こっち来て」
「……了解した」

僅かに目を逸らしながら、彼女がそう言った。その頬は心なしか紅潮しているようにも見える。

お互いの好意は伝え合っている。学校という日常の象徴の中へ彼女を連れ戻したあの時、宗介はメキシコで交わした約束どおり、かなめとキスもしている。
恋愛感情というものを身をもって知ることとなった宗介からすると、今の彼女は学校での彼女ではない。自分しか知らない類の彼女だ。そんな気がする。
妙に逸る鼓動の意味を、まだ理解しきてれいない宗介は、いくらかぎくしゃくとしながらかなめの横へ座った。

かなめはそっと宗介を見上げて、右手を伸ばす。
宗介は疑問の眼差しを彼女に向けたが、彼女は答える気はないようだ。

「…っ」

伸びてきた手が、宗介の頬に触れた。
ほっそりとした指先は柔らかく宗介の頬をなぞる。
滑っていくその指先と、どこか熱っぽい視線。速まる鼓動が収まらない。何か危険な予感がする。宗介は息を呑んで硬直した。

「あたしの知ってる、…ソースケ」

かなめは愛おしそうに宗介の頬─── 正確にはそこにある傷痕をなぞると、心の底から安堵したように、宗介にはなんのことか分からないことを呟いた。

「…千鳥?」
「ううん。何でもない。ふふ」

どうも彼女はそれで満足したらしく、手を離してしまった。
離れていく手に寂しさ(いいや、物足りなさだろうか)を隠せない。
微笑を浮かべる彼女がいつものように笑う。力強く。
それはそれで胸が熱くなる。嬉しい。よかったと思う。けれど、足りない。

「さて、じゃあご飯食べましょ。生憎と冷蔵庫の中身は空っぽだから、作れるものなんて何もないけど。
 カップ麺は流石に味気ないし、今日くらいちょっと食べに行きたいところだけ、ど…え、ソ、ソースケ……?」
「千鳥」

気が付いたら、彼女の手を握っていた。
上擦った声を上げる彼女の頬は間違いなく赤い。

「…、な……なによ?」

戸惑いが浮かんだ瞳に、何を言うべきか分からない。
分からないまま、どうにもならない衝動だけが身体を支配し、滾る熱が身体中を駆け巡る。
このまま唇を重ねてしまいたい。だが、彼女の許可なしで? それは彼女の機嫌を損ねることになりはしないだろうか。
逡巡した。逡巡したが、彼女の手を掴む力は緩まなかった。そのまま一秒。二秒。三秒。…五秒以上、経過。

「…あんたね、そのまま硬直されたら、あたしも困るんだけど」
「そうなのか? …いや、すまん。そうだな。やり直そう」
「本当に分かってるのかしらね…?」
「もちろんだ。問題ない」
「問題だらけよ」
「なぜだ」
「…だって、そういう気分じゃないもの。あんたがモタモタしてるからよ」
「……そうか…」

しょぼん、と項垂れた宗介の見えない耳がたれている。尻尾もだ。
こういう姿を見ると、なんだか放っておけない。元気付けてあげたくなってしまう。彼を気落ちさせたのは他ならぬ自分だろうに。まったく矛盾している。だが、どうしよもない。たぶん、恋とはそういうものなのだ。少なくとも自分にとっては。不器用だけど、その不器用さも愛しいんだ。

宗介は俯いて、がっくりとしていた。しょぼくれる子犬そのものだ。
懐かしいなー、この感じ。 胸を締め付ける切なさに想いを馳せてから、かなめは宗介の手をぎゅっと握り返した。
宗介が顔を上げる。かなめは身を乗り出し、彼の頬へ唇を落とした。

「…っ、…千鳥?」
「あたしがしたかったからしただけよ」

驚きに目を見開いていた宗介だったが、彼女からの回答を聞くと、何度か瞬いた後、『そうか』と漏らして思案顔になる。
そこはかとなく嬉しそうだ。頬も赤い気がする。
かなめは握っていた手を何の気なしに、もう少し強く握った。
すると、宗介が真っ直ぐにかなめを見つめ、無言のまま彼女の額に唇を落とす。
今度はかなめがビックリする番だった。何も言えず、額に残る熱っぽい感触にドキドキする。
ゆっくりと離れていった宗介をそっと見上げると、彼は『俺もしたかったからそうしたまでだ』と呟いた。

次は唇だぞ、という最後に零れたその言葉が、かなめの心臓のリズムをとことんまで狂わせる。
さっきの子犬は何処へ消えたのか、目の前には尻尾を振って、誇らしげに胸をそらしている彼が居るようだ。
かなめは聴こえなかったふりをして、照てくさそうに微笑んだまま、宗介の手をぎゅっと握った。

■END

賀東センセ、四季童子さん、今までありがとうございました! お疲れ様でした!!
ものすごく寂しいです。フルメタが大好きです。どうか短編集でお会いできることを祈って。

最終上下巻を読み終わって涙。感想をちょろりと拝見しつつ、まだそーかな的Afterを書かれている方がいらっしゃらないようだったので書き殴ってみました。
久しぶりに書きました。やっぱり、そーかなが好きです。

完結おめでとうです!な素敵企画さまを発見。
フルメタル・パニック!長編完結記念ウェブアンソロジー
応援しております。密やかに通わせていただきたい所存です。

感想は日記に書いてますので割愛しますが、…言葉にできない思いで胸がいっぱいです。
最終巻を読み終えても、終わった気がしません。いえ、物語はきっちり終わっていると思うんですが、ソースケやかなめ、ミスリルのみんなのその後が気になります。
後日談的なものを書いていただけるのなら、書いてほしいです。
かなめのハリセンに喜んでお付き合いさせていただきたい(笑)気持ちもありますし、不思議と終わったけど終わった感じがしない…まだ彼らの世界は続いていて、ふと想いを馳せれば相変わらずドタバタしてるんじゃないかな、という気持ちが強くて、こちらの作品にはこんなタイトルをつけました。

いつかまた、かなめのハリセンに出会えますように。
お付き合いありがとうございました。

※追記
セーフハウスなくなってると思ってたけど、読み返しチェックの時点で『あれ? じゃあ宗介の制服はどこにあって、どうやって入手したのか…?』なんてことに気が付いてしまいました。
実に…申し訳ない。セーフハウス、まだ残ってた(放置されてた)って考えるほうが自然でしょうね…。
ごめんなさい。気力があれば書き直すけど、たぶん…その気力はないでしょう。(汗)

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