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神山監督とタムラコータロー監督が好き。 I've Soundという音楽制作集団のぷち追っかけ。
■Tales of Vesperia/ユリエス
※原作/エステル奪還へ向かう途中、ハルルから帝都へ。ユーリ単独行動中。

Please Kill me.



悪夢の一欠けらのように、彼女の声が耳から離れてくれない。
港町カプワ・ノールから陸路(流氷)を使って何とか花の町ハルルまでやってきたものの、状況はあまり良くないらしい。
エアルが暴走中である帝都は、生半可な装備で近付けるものではない。
ハルルに逃げてきた帝都の人間の話によると、植物が巨大化して町の中が目茶目茶になっている、とのこと。
空は赤っぽく黒ずんで、空気もどこかおかしい、その話を聞いてリタは『エアルの暴走だわ』と言っていた。
そんな高濃度のエアルの渦に人間が長居すれば悪影響を受けるに違いなかった。
暴走したエアルの影響で、周辺の魔物も凶暴化しているだろう。

その原因は、エステルの能力にある。
元凶は勿論アレクセイだが、エステルの持つ能力がその状態を作り出してしまったことは違いない。
それを防ぐことのできなかった不甲斐無さに、ユーリは短く息を吐いた。

ラピードを伴って、独り、ハルルの町を出る。

夜空は帝都を飛び出した頃とさして変わらぬように見えるのに、状況は激変した。
ユーリ自身、自分が変わったとは思っていない。

クオイの森に入ったところで、ここでカロルに会った時のことを思い出した。
あの時は危なっかしい子どもにしか見えなかったけれど、今やギルドの首領たるべく奮闘し、立派にその責務を全うしている。
命を賭して仲間を助けた小さな首領のことを、ユーリは誇りに思った。

置いていかないでね、と言っていたカロルの言葉が胸を突く。
けれどユーリは置いてきた。
カロルだけではなく、『凛々の明星』のジュディスや、他の仲間たちを置き去りにして。独り、帝都へ向かっている。
急かされるように、足が動く。
剣を握る手のひらが汗ばんで、嫌な感じがした。

─── これ以上、誰かを傷付ける前に。

「…、くそ」

彼女に手を伸ばして、でも届かなかった。
その時から耳から離れてくれない、悪夢の声。

─── お願い、私を、

囁きのように、何度も何度も繰り返している。
耳鳴りのように、リピートして止まってくれない。

─── ころして。

帝都に手際よく侵入できたところで、肝心のエステルがもう手遅れだった場合、どうするべきなのか。
彼女自身がどうしてほしいのか、ユーリには分からない。
本当にエステルがそれを選んだのか。
選んだとして、そこに後悔がないわけがないのに。
後悔がある筈なのに、彼女は全てを諦めて飲み込んだ上でなお、そんな結末を選ぶのか。
心優しい彼女にとって、自身の意思とは関係ないとはいえ、自身の持つ能力によって傷付き苦しめられている人々を目にすることが、どれだけの苦痛を伴うのか、考えただけで息が詰まりそうだ。
そんなことをさせているアレクセイに殺意が湧く。
そんなことをさせてしまった自分に苛立つ。

「クゥーン」
「…悪い、ラピード。大丈夫だ」

ユーリの足元で、相棒がか細く鳴いた。
長年の付き合いもあって、言葉が通じなくてもラピードには大抵のことを見抜かれてしまう。
ラピードに顔を向けてそう言うと、ユーリはまた歩き出す。
けれど、物思いを止めることはできなかった。
独りだから、というのもあるだろう。
迷っている、というのもある。

あの時のエステルの言葉は、ユーリしか聞いていない筈だ。
あの状況で仲間たちのもとへエステルの声が届いたとは考えにくい。
手を差し伸べた、でも、指先が触れることすら叶わなかった。
そして彼女がユーリへ告げた言葉は。

「……は、…」

短い、息を吐く。
自嘲の混じった、吐息を。

エステルが本当にそれを望んだかどうかは分からない。
けれど、もし望んだとしたなら、彼女はユーリにそれを託したのだ。
だから、独りで来たのかもしれない。

彼等が背負うには、重たすぎる。
独りで背負うのも、重たい。
損な役回りだとユーリも理解している。
でも、その悲痛な願いを耳にしたのは、ユーリだけだ。

「もし、手遅れだったら、か」

考えたくはねぇけど、とぼやいて、ユーリは森の中の闇を見据えた。
魔物の気配。数は多くない。
ラピードが身を低くして構えている。
鞘から剣を抜いて、ユーリも身構える。

どうかこれから挑む戦いが、彼女を殺す為ではなく、彼女を救う為の戦いであることを。

草むらから現れた魔物に向かって剣を携え、ユーリは重たい足を引きずって駆け出した。

■END

今のところTOVは甘いのよりどシリアスが好きみたいです。
ゲームが存外に楽しくて書く暇なく遊んでます。
ほっとけば時間がある限りゲームしてます。(ダメ人間)

というわけで、もうこれ、終盤だよね…たぶん?
PS3版をプレイしてるのですが、楽しいねTOV。

原作プレイして初めて書いたお話がこれなのか、なんか…え? って感じがなきしもあらずですが、書きたい話を書けたのでとりあえずは良しとしましょう。
基本ユリエス、レイリタでいきたいですが、TOVは雑食っぽいのでフレリタ、フレエス、ユリリタとかも出てきたりして…?
時間がないので難しいかもしれませんが…。

お付き合いしてくださった方、どうもありがとうございました。

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