神山監督とタムラコータロー監督が好き。
I've Soundという音楽制作集団のぷち追っかけ。
■Angel Beats!/ひなユイ(日向視点)
※第10話『Goodbye Days』の後のお話です。ネタバレ含むのでご注意下さい。
※『cross talk』の続編です。
※第10話『Goodbye Days』の後のお話です。ネタバレ含むのでご注意下さい。
※『cross talk』の続編です。
cross talk 2
─── そんなに小さくなって 君は何を見るの
─── 曇り硝子の向こうに 二人の夢もあったね
ぽつり、灰色の空から落ちてきた雨。
あー降り出したか、と呟くものの、日向は頬に落ちてきた雨粒を払わない。
彼は今、屋上でひとり、グラウンドを見つめていた。
柵に両腕をかけて、前のめりになりながら、静かに。
誰も居ない、濡れ始めたグランドを見下ろす。
雨が前髪に落ちてきて、そっと目を閉じる。
「お前が最初で良かった、のかな」
消えてしまった、ひとりの女の子の姿を思い浮かべる。
この世界から、旅立っていったひとりの女の子。
彼女を、日向は見送った。
いいや、彼女を日向が、送り出した。
彼女が抱えていた未練を、自分の手で消してやることができたのは良かった。良かったと思う。
けれど、胸に空いたぽっかりとした寂寞を、上手く埋めることができずにいる。
彼女が生きていた頃に抱えていた葛藤を、解決できた。
だからこそ、彼女はこの世界から消えていった。
彼女を自分の手で、屑だと思っていた自分の手で、送り出せたことが誇らしい。
たぶん、彼女が最初で良かった。
彼女が笑っていられる楽園が、崩れていく様を見せなくて済んだから。
「結婚、か」
それは、ここでは果たせない約束だ。
どうあがいても、叫んでも、ユイが消えてしまったこの世界では果たされることのない約束だ。
─── 時間はいつも切なくて 秋の風のように
─── 遠くまで君の今を どこかに連れて行くよ
雨に濡れるのも構わず、日向は誰も居ないグラウンドを見続ける。
生きていた頃、絶望した野球。
その野球をきっかけに、彼女と出会えるのなら。
それは希望に塗り変わるんじゃないだろうか。
『ユイ、歩けないよ』
そんなことは何も関係ない。
震えそうに零れた小さな声を、覚えている。
見つめた先の彼女は、大きな瞳に涙を溜めていた。
─── 数え切れない出来事が 君の瞳から落ちて
─── 流されながら揺れながら 初めての出会いへと
不安と恐怖を沢山に詰め込んだ声に、胸が痛くなった。
本当の自分を曝け出してもなお、日向はユイの夢を、叶えることのできなかった夢を、諦めてしまいたくはなかった夢を、叶えてくれるのか?
ユイの瞳が訴えていた。ユイの声が語っていた。
生前の自分の不幸を曝け出してなお、願いを叶えてくれる訳がないと言い聞かせるように、悲痛な寂しさを隠して。
この世界は理不尽だ。理不尽に人生が終わってしまったという現実を認められずにあがいている魂の行き先だ。
だからこの世界には、しあわせに死んでいった奴なんて、たぶん居ない。
不幸比べをしようとしているわけじゃない。此処に居る誰もが、それぞれ不幸だったのは間違いない。
彼女の不幸を受け止められるような、帳消しにできるような幸せなんて、日向は持っていないかもしれないけど。
「お前が居ないと、やっぱつまんねーな」
彼女は確かに、日向へ何かをくれていた。
笑っていられるような何かを。
この世界に留まりたいと思える何かを。
生きていた頃の痛みに絶望しないで、ひとりの女の子と真っ直ぐ向き合える、何かを。
「ちゃんと好きだって、言えなかった、…ばか、ああもう、マジでばかだなー」
本当にバカですねー、ひなっち先輩。
そうやって頷いて、べーっと舌を出す小悪魔のようなユイは、もう居ない。
送り出したのは自分だ。希望を抱かせて、見送った。
誇らしい、けど、どうしてだろう。ひどく寂しい。悲しい。
一緒に居たかった、本当はもっと。
一緒に居たかった、本当はずっと、一緒に居たかった。
(叶わないと知っているけど、叶えてはならないと本当は気が付いていたけど。)
本降りになってきた、生温い雨の中、日向は手のひらを開く。
雨の日。校舎の中。ユイと二人、じゃれあった。いつものプロレス。いつもの罵声。
それがもう二度と、やってこない。あの冷えた日、小さな手の温もりを、この手は知った。知っていた。知っていたのに。
もう、それを。知ることは、できない。
この世界では。日向が日向のまま、存在しているこの世界では。
「…生まれ変わりがあると信じてさ、俺は最後まで、此処に残るよ」
ユイ以外の大切な仲間を見送れるだけ見送って、守れるだけ守って。
死んだ世界戦線の古株である自分は、できるだけ、最後まで仲間を見送ろう。
見送るのはつらいから。
残されるのはいたいから。
「だからさ、」
─── 繰り返す時間のリングを ずっと歩いて行くんだね
日向は雨の中、顔を上げる。
拳を作って。
握り締めた手のひらに、沢山の痛みを封じ込めて。
─── 誰も知らない未来のどこかで きっと巡り会おうよ
「ユイ」
六十億分の一の確率で巡り会って。
たったひとつの、約束を果たそう。
■END
前回の記事に早くも反応いただけて、かなりビックリしております。寧ろ何処からいらっしゃいました…すごく寂れたサイトなので、しかも唐突AB!ですし。
とにかく拍手ありがとうございます。需要はともかく哀華さんは書きたいこと書けて満足です。
10話Afterの日向です。前回の『cross talk』は、この話を書きたいが為の前フリのようなものでした。
そこまで繋がりはない気もしますが、失ってから気付く、というの私はどうも好きみたいで、失う前に気付けなかった幸福な風景を書いておきたかったのです。
さてタイトル『cross talk』はI've Soundの曲ですね。大好きですね。私が今聴いてるのは詩月さんverですが。
なんかもう、ひなユイ曲に聴こえて仕方ない。お話の中に一番の歌詞を埋め込んでますが、なんかもうね、ほんと…巡り会ってね。という感じです。
お付き合いありがとうございました!
─── そんなに小さくなって 君は何を見るの
─── 曇り硝子の向こうに 二人の夢もあったね
ぽつり、灰色の空から落ちてきた雨。
あー降り出したか、と呟くものの、日向は頬に落ちてきた雨粒を払わない。
彼は今、屋上でひとり、グラウンドを見つめていた。
柵に両腕をかけて、前のめりになりながら、静かに。
誰も居ない、濡れ始めたグランドを見下ろす。
雨が前髪に落ちてきて、そっと目を閉じる。
「お前が最初で良かった、のかな」
消えてしまった、ひとりの女の子の姿を思い浮かべる。
この世界から、旅立っていったひとりの女の子。
彼女を、日向は見送った。
いいや、彼女を日向が、送り出した。
彼女が抱えていた未練を、自分の手で消してやることができたのは良かった。良かったと思う。
けれど、胸に空いたぽっかりとした寂寞を、上手く埋めることができずにいる。
彼女が生きていた頃に抱えていた葛藤を、解決できた。
だからこそ、彼女はこの世界から消えていった。
彼女を自分の手で、屑だと思っていた自分の手で、送り出せたことが誇らしい。
たぶん、彼女が最初で良かった。
彼女が笑っていられる楽園が、崩れていく様を見せなくて済んだから。
「結婚、か」
それは、ここでは果たせない約束だ。
どうあがいても、叫んでも、ユイが消えてしまったこの世界では果たされることのない約束だ。
─── 時間はいつも切なくて 秋の風のように
─── 遠くまで君の今を どこかに連れて行くよ
雨に濡れるのも構わず、日向は誰も居ないグラウンドを見続ける。
生きていた頃、絶望した野球。
その野球をきっかけに、彼女と出会えるのなら。
それは希望に塗り変わるんじゃないだろうか。
『ユイ、歩けないよ』
そんなことは何も関係ない。
震えそうに零れた小さな声を、覚えている。
見つめた先の彼女は、大きな瞳に涙を溜めていた。
─── 数え切れない出来事が 君の瞳から落ちて
─── 流されながら揺れながら 初めての出会いへと
不安と恐怖を沢山に詰め込んだ声に、胸が痛くなった。
本当の自分を曝け出してもなお、日向はユイの夢を、叶えることのできなかった夢を、諦めてしまいたくはなかった夢を、叶えてくれるのか?
ユイの瞳が訴えていた。ユイの声が語っていた。
生前の自分の不幸を曝け出してなお、願いを叶えてくれる訳がないと言い聞かせるように、悲痛な寂しさを隠して。
この世界は理不尽だ。理不尽に人生が終わってしまったという現実を認められずにあがいている魂の行き先だ。
だからこの世界には、しあわせに死んでいった奴なんて、たぶん居ない。
不幸比べをしようとしているわけじゃない。此処に居る誰もが、それぞれ不幸だったのは間違いない。
彼女の不幸を受け止められるような、帳消しにできるような幸せなんて、日向は持っていないかもしれないけど。
「お前が居ないと、やっぱつまんねーな」
彼女は確かに、日向へ何かをくれていた。
笑っていられるような何かを。
この世界に留まりたいと思える何かを。
生きていた頃の痛みに絶望しないで、ひとりの女の子と真っ直ぐ向き合える、何かを。
「ちゃんと好きだって、言えなかった、…ばか、ああもう、マジでばかだなー」
本当にバカですねー、ひなっち先輩。
そうやって頷いて、べーっと舌を出す小悪魔のようなユイは、もう居ない。
送り出したのは自分だ。希望を抱かせて、見送った。
誇らしい、けど、どうしてだろう。ひどく寂しい。悲しい。
一緒に居たかった、本当はもっと。
一緒に居たかった、本当はずっと、一緒に居たかった。
(叶わないと知っているけど、叶えてはならないと本当は気が付いていたけど。)
本降りになってきた、生温い雨の中、日向は手のひらを開く。
雨の日。校舎の中。ユイと二人、じゃれあった。いつものプロレス。いつもの罵声。
それがもう二度と、やってこない。あの冷えた日、小さな手の温もりを、この手は知った。知っていた。知っていたのに。
もう、それを。知ることは、できない。
この世界では。日向が日向のまま、存在しているこの世界では。
「…生まれ変わりがあると信じてさ、俺は最後まで、此処に残るよ」
ユイ以外の大切な仲間を見送れるだけ見送って、守れるだけ守って。
死んだ世界戦線の古株である自分は、できるだけ、最後まで仲間を見送ろう。
見送るのはつらいから。
残されるのはいたいから。
「だからさ、」
─── 繰り返す時間のリングを ずっと歩いて行くんだね
日向は雨の中、顔を上げる。
拳を作って。
握り締めた手のひらに、沢山の痛みを封じ込めて。
─── 誰も知らない未来のどこかで きっと巡り会おうよ
「ユイ」
六十億分の一の確率で巡り会って。
たったひとつの、約束を果たそう。
■END
前回の記事に早くも反応いただけて、かなりビックリしております。寧ろ何処からいらっしゃいました…すごく寂れたサイトなので、しかも唐突AB!ですし。
とにかく拍手ありがとうございます。需要はともかく哀華さんは書きたいこと書けて満足です。
10話Afterの日向です。前回の『cross talk』は、この話を書きたいが為の前フリのようなものでした。
そこまで繋がりはない気もしますが、失ってから気付く、というの私はどうも好きみたいで、失う前に気付けなかった幸福な風景を書いておきたかったのです。
さてタイトル『cross talk』はI've Soundの曲ですね。大好きですね。私が今聴いてるのは詩月さんverですが。
なんかもう、ひなユイ曲に聴こえて仕方ない。お話の中に一番の歌詞を埋め込んでますが、なんかもうね、ほんと…巡り会ってね。という感じです。
お付き合いありがとうございました!
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