神山監督とタムラコータロー監督が好き。
I've Soundという音楽制作集団のぷち追っかけ。
■あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない/仁太と鳴子
※第六話『わすれて わすれないで』より。
※学校を飛び出して秘密基地までの道中。
※第六話『わすれて わすれないで』より。
※学校を飛び出して秘密基地までの道中。
あの頃と変わらずに、/第六話『わすれて わすれないで』
夏の残滓でどうにかなってしまえばいいのに。
援助交際騒ぎで学校を飛び出した二人は、黙々と人通りの少ない路地を歩いていた。
本来ならばまだ教室で気だるい午後の授業を受けている時間帯だが、渦中の人物として注目を集めずにはいられない鳴子と、昨日までほぼ引きこもりの仁太の二人である。頭の片隅には学校というキーワードが引っかかっているものの、とても戻る気にはなれない。少なくとも今は戻ろうとも思わないし、戻るべきだとも考えていなかった。
ふう、と仁太は自分の鞄と鳴子の鞄を肩に下げて彼女の後ろに続く。
(俺を見ろってなんだよ)
先ほど教室でそう叫んだ自分を思い出して頭を抱えたくなった。
しかし、あれは仕方がなかったのだ。知らずに足が止まる。
持ち上がった援助交際疑惑で居たたまれない視線と心ない言葉の刃の嵐、鳴子はそんなものに耐えられない。
耐えられないと仁太は知っていた。ノートに走らせたペンが綴った『助けて』の文字に、不器用でも応えられていればいいのだが。
「でも、『俺を見ろ』はねーよなあ…」
鳴子本人にも『変態じゃんと』と言われる始末だ。
呟きはアスファルトから立ち昇る陽炎に揺らめいて消える。
発言が恥ずかしい。所謂イタイ発言だ。
あれが最善だったとは思わない。もっとスマートな方法もあっただろう。
だけど、仁太にできる精一杯は、たぶん、あれだったのだ。
そこまでは自分を説き伏せることに成功しているのだが、だんまりの鳴子について歩いていると、どうしても考え込んでしまう。
もっと上手くやれたらよかった、自嘲にも似た苦悩が口元に浮かぶ。
「ちょっと、何してんのよ」
「へ…?」
「鞄」
「…あ、あぁ…」
立ち止まっていた仁太の傍まで戻ってきた鳴子は、目を合わせることもないまま、仁太に鞄を要求した。
差し出された鳴子の手に、言われるがまま鞄を渡すと、彼女はくるりと踵を返し、すぐ傍のコンビニへ向かう。
「…」
何処に行くんだよ、と問う意味はなさそうだったので、仁太も黙って続いた。
表は暑くて汗をかく。コンビニの中は涼しかった。
つい癖でふらりとお菓子コーナーへ足を向けてしまいそうになるが、鳴子が気になった。
彼女は店の奥にすたすたと歩いていった。商品棚に隠れてよく見えない。
客の少ないコンビニの中で、彼女の後をついて回るのも何だか違和感を感じたので、仁太はレジ前のお菓子コーナーに入る。
別段何かを買おうとしていたわけでもないので、時間がかかるようだったら大人しくついて行けば良かったと思いながら、意味もなく新商品を手に取る。
ぼんやりパッケージのイメージイラストと睨めっこしていると、意外とすぐに鳴子はレジに現れた。
さっさと買い物をして、仁太に振り向きもせず、コンビニを出て行く。
仁太も慌ててパッケージを棚に戻し、鳴子の後にいてコンビニを出る。
幾らか憮然としながら、おまえなあ、と声をかけると振り返った鳴子が手を突き出した。
「はい、これ」
「…あ…?」
「あんたの分」
見慣れた青いパッケージ。子どもに優しい低価格。
そっぽを向いてガリガリ君を突き出す鳴子に、問いかけてしまう。
どうして鳴子が自分にこれをくれるのか、仁太は分からなかった。
戸惑い混じりにどうしてと鳴子を見やると、鳴子は唇を尖らせて呻くように言う。
「た、食べたかっただけ! 暑かったから! あんたの分は、…ついで」
「ついでかよ」
「…ちがう…」
思わず突っ込むと、微かに頬が赤いことに気が付いた。
鳴子がすこし緊張しているようだったので、仁太は訝しげに眉を顰める。
「……さっきのお礼。頑張ってくれたから。格好悪かったけど」
消え入りそうな声に、ようやく仁太も納得した。
鳴子は、先ほど教室で庇ってくれたことに対して、感謝の意を示してくれたのだ。
考えてみれば、これはそう不思議な出来事でもない。
彼女はこういう奴だ。恐ろしく鈍感な自分に苦笑すら浮かんでくる。
「格好悪い自覚はある…」
とりあえずガリガリ君を受け取ると、鳴子はくるっと前を向いて自分の分のガリガリ君の封を切る。
サンキュー、と礼を述べてから、仁太も慣れた手付きでガリガリ君を取り出した。齧る。
(おまえが泣くから、格好悪くても言うしかなかっただろ。つーか、勢いで立ち上がっちゃったら、やるしかねえし)
変態じゃん、という言葉が脳内リピートされて微妙に傷付く。否定できない。傍からすれば痛々しい。
その認識がある仁太は、複雑そうな表情で鳴子から視線を逸らす。
(…まあ、笑ってくれて良かったけど)
しゃくしゃくと咀嚼すると、口の中に広がる、甘すぎない冷たさが心地良い。
思ったことは、気恥ずかしくて言葉にできない。
ほどよく冷たい甘さと共に、飲み込んだ。
秘密基地へと続く道を歩きながら、仁太はガリガリ君を片付けた。
残暑とはいえ、まだ強い日差しには敵うべくもない。
油断していれば、ガリガリ君が溶けて消えてしまうのだ。
指がべたべたになる前に食べ終わった仁太は、鳴子に話しかけようとか思ったが、まだ食べている様子だったので黙った。
いろいろ考えながら彼女に続いて歩いていると、彼女は微妙に歩を緩めた。
鞄からごそごそとティッシュを取り出した鳴子を見て、思わず笑みが零れた。
「…なによ」
「いや、おまえ相変わらず食べるの遅いよな」
「うっそ、もう食べたの!?!」
「すげー溶けてる。そのままだと制服とか鞄につくぞ」
「っん!」
鳴子の指に流れている滴を指摘すると、彼女は慌てて残りのガリガリ君を齧り始めた。
食べ終わるのを待って、鳴子の鞄を持ってやる。
べたべたの手で肩からずり落ちた鞄を提げなおすのは大変そうだったからだ。
大人しく鞄を渡して、鳴子は拗ねたような顔で指先を拭く。
「うっわ、べたべた…」
「途中で洗っていった方がいいかもな」
「…でも」
声が小さくなる。
鳴子は、仁太が持っている自分の鞄に視線を移した。
仁太はわざと手に持っていた鞄を肩に提げる。
「鞄は俺が持つ。奢ってもらったし」
「あんたの手はべたべたしてないの?」
「おまえと違って、すぐ食べたからな。…ほんと、要領悪いよなあおまえ。この暑いのにちまちま食べたてたら、そうなるに決まってるだろ」
「う、うるさいわね!」
ティッシュがこびり付いた指先を隠すように、鳴子が叫ぶ。
ぶつぶつと不機嫌そうに文句を垂れ流しながら、彼女は指についたティッシュを剥がす作業に入った。
仁太は車に注意しながら、彼女の歩に合わせて歩く。
「昔から変わんないな」
すこしだけ穏やかに笑ったその気配に、鳴子はどきりとした。
昔から変わらないのは、寧ろ。
「…何よ、─── 」
助けてくれると思っていたわけじゃない。でも、助けてくれた。
他の誰も庇わなかったのに、仁太は自分の傷を晒してまで庇ってくれた。
どくり、心臓が高鳴る。
引っ込んだ涙の代わりに、消えにくい熱が胸に灯る。
そんな風に、優しい声で笑うなんて卑怯だ。
顔が見えなくても想像がつく。どんな表情をしているのか、想像できてしまう。
「─── それ、こっちの台詞」
あの頃と変わらずに、この胸に宿っている想い。
あの頃より広く深く、この胸に海は揺れている。
唇から零れた本音は、蝉の鳴き声に掻き消されて消えていった。
■END
前半戦が終了。後半がどうなるのか…めんまの願い、気になります。
みんな仲良しで、最後は笑って見れるのかな。
早見姉さん曰く『演じている私たちのぐじゅぐじゅ』だの『涙なくして見れない』だのハードル上げまくりでしたけど、そこは安心して大丈夫だよね!
というわけで毎週あの花が楽しみです。
ブランクありすぎて文体を忘れているのが残念です私…。
今後も楽しみです。BD買うか迷ってる唯一のアニメ。
お付き合いありがとうございました。
夏の残滓でどうにかなってしまえばいいのに。
援助交際騒ぎで学校を飛び出した二人は、黙々と人通りの少ない路地を歩いていた。
本来ならばまだ教室で気だるい午後の授業を受けている時間帯だが、渦中の人物として注目を集めずにはいられない鳴子と、昨日までほぼ引きこもりの仁太の二人である。頭の片隅には学校というキーワードが引っかかっているものの、とても戻る気にはなれない。少なくとも今は戻ろうとも思わないし、戻るべきだとも考えていなかった。
ふう、と仁太は自分の鞄と鳴子の鞄を肩に下げて彼女の後ろに続く。
(俺を見ろってなんだよ)
先ほど教室でそう叫んだ自分を思い出して頭を抱えたくなった。
しかし、あれは仕方がなかったのだ。知らずに足が止まる。
持ち上がった援助交際疑惑で居たたまれない視線と心ない言葉の刃の嵐、鳴子はそんなものに耐えられない。
耐えられないと仁太は知っていた。ノートに走らせたペンが綴った『助けて』の文字に、不器用でも応えられていればいいのだが。
「でも、『俺を見ろ』はねーよなあ…」
鳴子本人にも『変態じゃんと』と言われる始末だ。
呟きはアスファルトから立ち昇る陽炎に揺らめいて消える。
発言が恥ずかしい。所謂イタイ発言だ。
あれが最善だったとは思わない。もっとスマートな方法もあっただろう。
だけど、仁太にできる精一杯は、たぶん、あれだったのだ。
そこまでは自分を説き伏せることに成功しているのだが、だんまりの鳴子について歩いていると、どうしても考え込んでしまう。
もっと上手くやれたらよかった、自嘲にも似た苦悩が口元に浮かぶ。
「ちょっと、何してんのよ」
「へ…?」
「鞄」
「…あ、あぁ…」
立ち止まっていた仁太の傍まで戻ってきた鳴子は、目を合わせることもないまま、仁太に鞄を要求した。
差し出された鳴子の手に、言われるがまま鞄を渡すと、彼女はくるりと踵を返し、すぐ傍のコンビニへ向かう。
「…」
何処に行くんだよ、と問う意味はなさそうだったので、仁太も黙って続いた。
表は暑くて汗をかく。コンビニの中は涼しかった。
つい癖でふらりとお菓子コーナーへ足を向けてしまいそうになるが、鳴子が気になった。
彼女は店の奥にすたすたと歩いていった。商品棚に隠れてよく見えない。
客の少ないコンビニの中で、彼女の後をついて回るのも何だか違和感を感じたので、仁太はレジ前のお菓子コーナーに入る。
別段何かを買おうとしていたわけでもないので、時間がかかるようだったら大人しくついて行けば良かったと思いながら、意味もなく新商品を手に取る。
ぼんやりパッケージのイメージイラストと睨めっこしていると、意外とすぐに鳴子はレジに現れた。
さっさと買い物をして、仁太に振り向きもせず、コンビニを出て行く。
仁太も慌ててパッケージを棚に戻し、鳴子の後にいてコンビニを出る。
幾らか憮然としながら、おまえなあ、と声をかけると振り返った鳴子が手を突き出した。
「はい、これ」
「…あ…?」
「あんたの分」
見慣れた青いパッケージ。子どもに優しい低価格。
そっぽを向いてガリガリ君を突き出す鳴子に、問いかけてしまう。
どうして鳴子が自分にこれをくれるのか、仁太は分からなかった。
戸惑い混じりにどうしてと鳴子を見やると、鳴子は唇を尖らせて呻くように言う。
「た、食べたかっただけ! 暑かったから! あんたの分は、…ついで」
「ついでかよ」
「…ちがう…」
思わず突っ込むと、微かに頬が赤いことに気が付いた。
鳴子がすこし緊張しているようだったので、仁太は訝しげに眉を顰める。
「……さっきのお礼。頑張ってくれたから。格好悪かったけど」
消え入りそうな声に、ようやく仁太も納得した。
鳴子は、先ほど教室で庇ってくれたことに対して、感謝の意を示してくれたのだ。
考えてみれば、これはそう不思議な出来事でもない。
彼女はこういう奴だ。恐ろしく鈍感な自分に苦笑すら浮かんでくる。
「格好悪い自覚はある…」
とりあえずガリガリ君を受け取ると、鳴子はくるっと前を向いて自分の分のガリガリ君の封を切る。
サンキュー、と礼を述べてから、仁太も慣れた手付きでガリガリ君を取り出した。齧る。
(おまえが泣くから、格好悪くても言うしかなかっただろ。つーか、勢いで立ち上がっちゃったら、やるしかねえし)
変態じゃん、という言葉が脳内リピートされて微妙に傷付く。否定できない。傍からすれば痛々しい。
その認識がある仁太は、複雑そうな表情で鳴子から視線を逸らす。
(…まあ、笑ってくれて良かったけど)
しゃくしゃくと咀嚼すると、口の中に広がる、甘すぎない冷たさが心地良い。
思ったことは、気恥ずかしくて言葉にできない。
ほどよく冷たい甘さと共に、飲み込んだ。
秘密基地へと続く道を歩きながら、仁太はガリガリ君を片付けた。
残暑とはいえ、まだ強い日差しには敵うべくもない。
油断していれば、ガリガリ君が溶けて消えてしまうのだ。
指がべたべたになる前に食べ終わった仁太は、鳴子に話しかけようとか思ったが、まだ食べている様子だったので黙った。
いろいろ考えながら彼女に続いて歩いていると、彼女は微妙に歩を緩めた。
鞄からごそごそとティッシュを取り出した鳴子を見て、思わず笑みが零れた。
「…なによ」
「いや、おまえ相変わらず食べるの遅いよな」
「うっそ、もう食べたの!?!」
「すげー溶けてる。そのままだと制服とか鞄につくぞ」
「っん!」
鳴子の指に流れている滴を指摘すると、彼女は慌てて残りのガリガリ君を齧り始めた。
食べ終わるのを待って、鳴子の鞄を持ってやる。
べたべたの手で肩からずり落ちた鞄を提げなおすのは大変そうだったからだ。
大人しく鞄を渡して、鳴子は拗ねたような顔で指先を拭く。
「うっわ、べたべた…」
「途中で洗っていった方がいいかもな」
「…でも」
声が小さくなる。
鳴子は、仁太が持っている自分の鞄に視線を移した。
仁太はわざと手に持っていた鞄を肩に提げる。
「鞄は俺が持つ。奢ってもらったし」
「あんたの手はべたべたしてないの?」
「おまえと違って、すぐ食べたからな。…ほんと、要領悪いよなあおまえ。この暑いのにちまちま食べたてたら、そうなるに決まってるだろ」
「う、うるさいわね!」
ティッシュがこびり付いた指先を隠すように、鳴子が叫ぶ。
ぶつぶつと不機嫌そうに文句を垂れ流しながら、彼女は指についたティッシュを剥がす作業に入った。
仁太は車に注意しながら、彼女の歩に合わせて歩く。
「昔から変わんないな」
すこしだけ穏やかに笑ったその気配に、鳴子はどきりとした。
昔から変わらないのは、寧ろ。
「…何よ、─── 」
助けてくれると思っていたわけじゃない。でも、助けてくれた。
他の誰も庇わなかったのに、仁太は自分の傷を晒してまで庇ってくれた。
どくり、心臓が高鳴る。
引っ込んだ涙の代わりに、消えにくい熱が胸に灯る。
そんな風に、優しい声で笑うなんて卑怯だ。
顔が見えなくても想像がつく。どんな表情をしているのか、想像できてしまう。
「─── それ、こっちの台詞」
あの頃と変わらずに、この胸に宿っている想い。
あの頃より広く深く、この胸に海は揺れている。
唇から零れた本音は、蝉の鳴き声に掻き消されて消えていった。
■END
前半戦が終了。後半がどうなるのか…めんまの願い、気になります。
みんな仲良しで、最後は笑って見れるのかな。
早見姉さん曰く『演じている私たちのぐじゅぐじゅ』だの『涙なくして見れない』だのハードル上げまくりでしたけど、そこは安心して大丈夫だよね!
というわけで毎週あの花が楽しみです。
ブランクありすぎて文体を忘れているのが残念です私…。
今後も楽しみです。BD買うか迷ってる唯一のアニメ。
お付き合いありがとうございました。
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